香奈~いもうと?~ 第1話

「ううっ、わかんねぇ……」

八月に入って最初の日の夜。夏休みの宿題を七月中に済ませた俺――千藤匠は、半年後に控えた高校入試に向けての受験勉強に、一足お先に取りかかっていた。

この年にもなって身長は百七十センチ以下、そのうえ運動もそれほど得意じゃない俺には、勉強くらいしか人に誇れるものがない。だから進路希望の筆頭には、県内最高レベルの私立校、○○学院を書いた。担任の先生には、俺の成績であれば無理な目標ではないと励まされ、俺は深く自尊心を満たされた。だが――

「なんだこの問題……、これから習う範囲なのか? ちっとも意味がわからない……うげぇ」

親にお金を出してもらい、街の大きな書店で買ってきた○○学院の過去問集。だが、最初に挑戦した、いちばん自信のある数学で、俺はさっそく難問の洗礼を受けていた。

時計を見れば、まもなく十時。「わからないことがあったら電話でもなんでもしてくれていいぞ」と言ってくれた先生にも、こんな時間に連絡するのは少し躊躇われる。でも、だからといって明日の朝までこの問題を放置するのは、性格的に気持ちが悪い。俺はしばらくの逡巡のあと、大きく溜め息をついて独りごちた。

「気が進まないけど、《あの人》に頼むか……」

机に向かった椅子からそう言って立ち上がると、俺は自分の部屋を出る。廊下に満ちる、うだるような真夏の空気に顔をしかめながら、五歩、六歩。九十度向きを変えると、そこには丸っこい木の文字で『KANA』と書かれたネームプレートが掛かっていた。

「香奈、まだ起きてるか?」

軽く二回のノックの後、俺はそう声をかけながらそのドアを押し開ける。すると、目に飛び込んできたのはやわらかなパステルカラーで満たされたインテリア。半開きのドアから見える部屋の隅には、自分専用の椅子に収まった大きな熊のぬいぐるみが笑っている。それが見えるってことはつまり、まだ電気が消えてないってことだ。

「あ、う、うん。まだ起きてるよ、お兄ちゃん……」

ドアの隙間に首をつっこむと、部屋の真ん中、これも淡い色のカバーで覆われたベッドの端に座っていたのは、ショートカットの女の子。突然の来訪者に驚いたのか、読みかけと思われる本を手の中から取り落としながら目をぱちくりさせている。

この子は香奈――俺の妹。年は9歳になったばかり。6歳も離れているけど、もちろん俺と同じ両親から生まれた、正真正銘の実の妹だ。おむつを替えたこともあるし、風呂に入れてやったこともある。

……だけど時々、自分でもそれを信じられなくなることがある。親父似の十人並みな顔に生まれ育った俺と違って、なんというか香奈は、兄であるこの俺ですら息を呑むほどにかわいいのだ。

もちろん、顔のパーツをひとつひとつ比べてみれば、両親や俺に似ているところもちゃんとある。だけど香奈は、それらが高い次元でまとまって、親父にもお袋にも、そして俺にも備わっていない、人を強く惹きつけるような魅力を生まれながらに身につけていた。

だけど、性格のほうは家族の他の誰にも似ず、恥ずかしがりの人見知り。せっかくのかわいさを活かそうと子役タレントのオーディションを受けさせてみたものの、たくさんの人の前で真っ赤になって何も言えず、落選して帰ってきた、なんて過去もある。まあ、これで性格まで社交的だったら恵まれすぎな気もするから、これくらいがちょうどいいのかもしれないけどな。

「……? どうしたの、お兄ちゃん?」

と、そんなふうに物思いに耽りながらしげしげと見つめていたら、香奈は不思議そうに小首をかしげ、そんなふうに問いかけてきた。膝の上にあった本を脇に伏せ、少し不安そうな目で俺を見つめるその目は、俺の庇護欲を痛いほどに刺激する。俺は断じてロリコンではないが、ピンクのキャミソールとベージュのキュロットパンツから伸びる短くてやわらかそうな手足を見ると、それだけではない気持ちはさらに加速していった。

「あ、ああ、そうそう。ちょっとお願いがあってきたんだ」

「お願い……?」

香奈の顔をまともに見られなくなった俺は、そんな心中を悟られないようにあさっての方向を向き、横目で顔色を窺いながらそう切り出す。ますます不思議そうな顔になって、俺の言葉をおうむ返しする香奈に、俺は意を決して向き直ると、深く息を吸い込んだあと、正面に座る「妹」に向けて、こう言って頭を下げたのだ。

「数学の問題でわからないところがあるんだ。教えてくれないかな……、《姉さん》!」

「…………!」

その瞬間、雷にでも打たれたかのように、香奈の体が一瞬ビクンと大きく跳ねる。

「あ……、ね……、ねえ、さん……?」

徐々に紅潮していく香奈の顔。熱に冒されたように呼吸を荒らげながら、うわごとのようにさっきの呼びかけを反芻する――どうやら始まったようだ。俺は、ゴクリと息を呑む。

「あ……、ん……」

荒い息の中、かすかに喘ぐような声を漏らしながら、切なそうに身をよじらせる香奈。すると次の瞬間、とうとう変化が現れた。

ぐぐ……と骨が軋むような音を立てて、ゆっくりと長くなっていく香奈の手足。見れば、さっきまでキャミソールに隠れていたはずのおへそも、いつの間にかその可愛らしい姿を俺の目の前にさらけ出している。そう、香奈の体は今、ものすごい速さで成長しているのだ。

「はぁ……ぐ、んっ……」

今は、もう11歳くらいだろうか。髪は肩の辺りまで伸び、最初はまったく起伏のなかったボディラインにも胸元の膨らみと腰回りのくびれが生まれ、さっきまでの童女から、溌剌とした少女の体へと移り変わっている。身長は、元の香奈から20センチ近く伸び、150センチくらいにはなっているだろう。すらりと伸びた脚はまだ痩せぎすだが、健康的な瑞々しさが溢れている。そしてその顔は、先ほどまでの子供らしいふっくらとした愛らしさから、あどけなさを残しつつもほっそりとして、こちらも少女……いや、美少女と呼ぶのがふさわしいものへと変わっていた。

何もないところから新たに生まれた重みに、ベッドのスプリングはぎしりと軋み、今では最初よりもずっと深く沈み込んでいる――だが、まだまだ変化は続く。

「はぅ……、あぅんっ……」

苦しそうに身悶えしながらも、見えない力で支えられているかのように座った姿勢のまま、さらに喘ぎ声をあげる香奈。足りない酸素を取り込もうとしているのか、懸命に深い呼吸を繰り返しているが、そのたびに手足は少しずつ伸び、手の指も長く美しいものへ変化していく。

そして、それと同時に、全身にも徐々に脂肪がつきはじめ、細く骨張っていた手足もたおやかな丸みを帯び始める。見た感じ、そろそろ13歳を過ぎたあたりだろうか。これが、保健の授業で習った第二次性徴ってやつだろう。数十秒に凝縮されたそのプロセスを目の当たりにして、俺は激しい興奮を覚えていた。

「はふ……、あ、あ、んっ……!」

幾分低く、大人っぽくなった声で喘ぎ続ける香奈。ここへ来て、香奈の呼吸が今まで以上に荒くなる。

すらりと美しく伸びた両腕で自分の体を抱きしめ、痛みを堪えるように俯く香奈。その胸元は呼吸に合わせて上下するが、それだけではない。今ではビキニトップと言っても差し支えないサイズになってしまったフリルのキャミソールだが、その裾の部分が、香奈が呼吸を繰り返すたびに、香奈の素肌からゆっくりと遠ざかっていく――胸が、大きくなっているのだ。

Aカップ程度だった香奈の胸は周りの空気を取り込んでいるかのようにボリュームを増し、Bを超えてCカップへ――それとともに艶と腰のある黒髪は蠢くようにベッドの上に流れ出し、かたや身長は既に160センチ後半、即ち、俺とほとんど同じくらいになっている。そして、その身長の半分ほどを占める脚の美しさに、俺はため息を漏らしてしまった。

今の彼女は、きっと17歳くらい……つまり、既に俺よりも年上になっているだろう。だが、本番はこれからだ。

「はっ……ぁ……」

身長の成長はほぼ止まったようだが、その胸元の成長は衰えを見せない。そのサイズは見る間にDカップを通り過ぎ、今はもうEカップを優に超えているだろう。そして、その顔つきからは少女の面影は既に消え、まるで蛹から蝶へと羽化するように美少女から美女へと変貌を遂げていた。

全体の体つきは細身ながら豊かな丸みを帯び、お尻はまるで桃のようなボリューム。それを包んでいたキュロットは今ではホットパンツほどになり、小さな声で悲鳴を上げている。そこから伸びる太股は、豊かに肉を纏いながらも決して太すぎず、そこから脹ら脛、足首へと繊細に絞り込まれてゆく曲線は、目を奪うほどに美しかった。

そしてまた、その胸もいつしかFカップほどになり、小さなキャミソールはミシミシと不穏な音を立てながらも、そのまろびでそうなほどの柔肉を自らの内側へと押し込めている。けれど腰回りは、元の香奈とほとんど変わらない細さを保ち、抱きしめたら折れてしまいそうなほどに細いくびれを形作っていた。

「はぁ……っ……あぁっ!」

元は9歳の子供だったとは思えない、艶めかしくも悩ましい声で大きくひとつ喘ぎ、香奈は力尽きたかのようにがくりと項垂れる。

今の香奈は、見た目二十歳といったところ。長く美しく伸びた手足や露わになったお腹はほんのりと上気し、滲んだ汗によってその透き通った素肌に貼りついた長い黒髪はたまらなく淫らに見えた。

ここまでで、体の成長はほぼ完了――そしてここから、最後の仕上げに入ってゆく。

「はぁ……、はぁ……」

先ほどまでの昂ぶりの残滓なのか、熱く大きな息を繰り返しながらも、力なく項垂れたままの香奈――と、そのとき。その玉のような柔肌の上を、ざわり、と、何かの影が走った。

「んあっ……んっ……!」

突如生まれた感覚に、香奈は大きく痙攣し、甘い声を漏らす。その影の正体は――糸。今や申し訳程度に肌を覆うだけになったキャミソールからキュロットから、幾条もの糸がしゅるしゅると音を立てながら伸び、その色を、その形を、今の香奈に適したものへと変えようとしているのだ。

ピンク色だったキャミソールは、徐々にその丈を伸ばしながら純白へと変わり、風合いも、ガーゼのような柔らかさから、さらりとしたなめらかなものになる。見つめているうち、その形は襟の開いた飾り気のないブラウスとなり、うつむいた胸元からは、大きな二つの山に挟まれた深い谷間が覗く。そして次の瞬間、その谷は広さを失い、ブラウスは一段と高く押し上げられる。どうやら、ブラジャーが胸を支えはじめたようだ。

一方、キュロットはその色を漆黒へと変え、二つに分かれていた腿の部分は一つになって、タイトなミニスカートへと生まれ変わる。そして、その太股の間の翳りの奥では、コットンのショーツがシルクへと変化するのが見えた。

こうして生まれ変わった装いに包まれた香奈は、その全身から、理知的な女子大生、といった雰囲気を漂わせはじめる。そして、この部屋の空気もいつしか、低年齢の児童特有の乳臭さから、柑橘系の引き締まった香りのものへと変わっていた。

そして、次の瞬間――今までで一番大きな変化が現れる。視界の中の部屋の景色が、蠢くように、とろけるように、揺らぎはじめたのだ。

窓にかかったピンクのカーテンは、落ち着いたオフホワイトに。淡いオレンジやグリーンで自己を主張していた本棚やクローゼットは、素材感あふれる白木のそれに。棚に並んでいた本は、絵本や児童書の類から難しい題名の学術書になり、机の上に置いてあったランドセルは、街のショーウインドーで見かけたことのあるようなブランド物のバッグになる。そして、クローゼットの前面に掛けられていたワンピースは白衣へとその姿を一変させ、彼女の手足に直接触れるベッドカバーやカーペットも、いつしかシンプルな風合いのものへと姿を変えていた。

その揺らぎが収まったとき、そこに広がっていたのは、大きく理を変えた新たな世界。俯いたままだった香奈……いや、《姉さん》は、その顔をゆっくりと上げると、どこか妖しさを孕んだ笑顔を見せ――落ち着いた大人の艶やかな声で、こんなふうにささやいたのだ。

「数学……? ふふ、いいわよ、匠」

こんなふうに――俺の妹、香奈は、元の彼女とは全く違う姿へと変身することができる。

そのトリガーは、俺からの呼びかけ。普段、俺は香奈を「香奈」と呼んでいるが、それとは違う呼び方をすると、香奈は、そのイメージに応じた姿へと変化するようなのだ。

このことに気づいたのは、五年前、幼稚園に上がったばかりの香奈に、ごっこ遊びの相手を頼まれたときだ。

そのとき香奈は、俺に自分のことを「お姉ちゃん」と呼ぶように言った。小さな妹のことがかわいくて仕方なかった小学生の俺は、その求めに応じて、遊び相手を引き受けた――すると、俺が香奈のことを「お姉ちゃん」と呼んだ瞬間、香奈は苦しみはじめ、そして、さっきのような現象が起こったのだ。

そのとき香奈が変化したのは、俺より二つか三つほど年上の女の子。だが、今みたいに訳が判っていなかった当時の俺は、変身のプロセスが終わり、その事態を認識した瞬間、怖くなって香奈の名前を叫んでしまった――すると、今度は逆の変化が香奈の周りに現れ、気づくと俺の前には、いつもと同じ姿の香奈が、何が起こったのかわからないといった顔でちょこんと座っていたのだ。

そんな香奈に、俺は、体の具合を気遣うとともに、その一連の出来事について問いただしてみたが、香奈は何もなかったと言う。しかし、本当に怖くなった俺は、それ以降、香奈のごっこ遊びにつきあうのを避けるようになった。

そんなことがあってからは、俺自身が怯えていたこともあり、数年は何事も起こらない日々が続いた――いや、起こらないようにしていた、と言うべきか。その間、俺は香奈とのコミュニケーション、特に遊びにつきあうのを控えがちになり、いくらかつまらない思いをさせてしまったかもしれない。

だが、一年半ほど前。13歳になり、自分で言うのも恥ずかしいが「思春期」というものを迎えた俺は、ある日、その事件のことを不意に思い出し、なぜか強い昂奮を覚えた。そして、今度は知的探求心から、こんなことを思い始めたのだ――あの現象は今でも起こるのか、起こるのであれば、そのとき香奈はどんな姿になるのか……と。

その日以来、そんな思いを抱えながら幾日かを過ごしたが、チャンスは意外と早く訪れた。ある日曜日、朝から連れだって出かけるという両親に頼まれ、一日留守番をすることになったのだ。つまり、家には夜まで、香奈と俺の二人きりということになる。確かめたいことが山ほどあった俺には、それはとても都合の良いことだった。

――そして昼食の時間、ダイニングのテーブルに差し向かいで座り、作り置きされた食事を食べながらテレビを見る俺と香奈。これを最大の好機とみた俺は、意を決して香奈のことをこう呼んでみたのだ――《姉さん》と。

すると、あのときのように苦しみ出し、ゆっくりと、しかし急速に成長しはじめる香奈。そしてしばらくの後、俺の目の前に座ってテレビを見ていたのは、当時7歳の妹ではなく、テレビや写真でも見たことのないほどの美しさをもった、18、9歳の女性だった。

そのとき、ふと気づいてキッチンのカウンターにある写真立てを見れば、そこに写っていたはずの幼い少女は、いま俺の目の前にいる女性へと変わり、机の上にいくらかこぼれていたはずの食べかすも、いつの間にかすっかり消えている。それを以て俺は、この変化が香奈だけではなく、世界の理にまでも及んでいるのではないかと思うようになった。

成長という変化をすっかり終えた香奈は、最初の俺の呼びかけに対し、「なあに、匠?」とこちらを見る。だが、そのまばゆいほどの美貌に見つめられた俺は恥ずかしくなってしまい、食べかけの食事もそのままに、逃げるように自分の部屋へと転がり込んでしまった。

その後、部屋に戻った俺は、さらなる裏付けを得ようと、家族のアルバムの写真を確かめた。すると、写真に撮られたタイミングでの俺と両親の年齢はそのままで、そこに映る香奈の年格好が、俺より五つほど年上に変わっている。そして、それに合わせて両親の結婚した年が数年繰り上がり、両親と幼い香奈だけが映った写真が最初の方のページに追加されていた。つまり、俺の仮定は正しかったというわけだ。

納得のいく結論を得た俺は、階下に戻って香奈の名前を呼び、香奈を――世界を、元あった状態へと復帰させる。その日から俺は、毎週のように香奈のこの変化について検証を重ねるようになった。そしてわかったことは、次の通り。


一つ、香奈は、呼ばれ方によって、それぞれ決まった姿へと変化する。《姉さん》と呼べば例の姿に、《姉ちゃん》や《姉貴》と呼べば、それぞれまた別の姿に。だが、全く他人の名前を呼んだり、名前にちゃん付けで呼んだりしても反応しないようだ。

二つ、俺以外の人間からであれば、香奈はどう呼ばれても変化しない。たとえば母親から「もうお姉ちゃんでしょ」なんて言われたとしても何も起こらないし、近所に住む幼稚園の子に「おねえちゃん」と呼ばれてもまた然りだ。

三つ、変化後の香奈も、実際の時間の流れに合わせて成長する。一年半前に18、9歳だった《姉さん》は今では20歳ほどになり、身長や髪の長さ……そして胸も、それに応じて成長している。同様に、五年前に「二つ三つ上」に見えた《姉ちゃん》は、今でも俺の二つ三つ上くらいだ。

四つ、香奈の記憶は変化の前後で連続せず、変化後のそれぞれの姿の間でも共有しない。それぞれがそれぞれ、最初からその個人として生まれ、育ち、その年齢まで生きてきたという個別のパーソナリティを持っている――つまり、そういう「世界」に暮らしてきたことになっているようだ。当然、各々の姿では趣味や性格、能力も違うし、周囲の人間関係さえも全く別個にできあがっている。変化後の香奈が、俺の全く知らない人間からの電話で、俺さえ持たせてもらっていない携帯電話で話しはじめたとき、俺はひどく驚かされたものだ。

五つ、この現象で年齢的な変化が発生するのは、俺の知りうる範囲内では香奈のみ。たとえば俺の両親の年齢は、変化後の香奈の年齢がいくつになったとしても変わらない。親子のつじつまが合わない年齢になる呼びかけもあったが、その場合は香奈の方がつじつまの合うポジションへと移動することになる。しかし、たとえ「きょうだい」の関係でなくなった世界でも、香奈の住む家はこの家だし、香奈の部屋は俺の隣の部屋だった。

そして最後、六つ目。変化後の香奈は、それぞれ雰囲気や微妙な造作は違いながらも、どの「世界」においても驚くほどの美貌を持ち備えている。いま9歳の香奈がそのまま成長しても、変化後のそれぞれの香奈と全く同じ容姿にはならないと思うが、香奈の将来について、さまざまな可能性を垣間見ることができるというのは、普通はありえないことだけに感慨も一入だった。


――と、まあここまで調べてはみたものの、まだまだわからないことは多い。受験の年の夏休みは勝負どころだとわかってはいるが、勉強の息抜きにでも、この研究を進めてみようか……なんて俺は、そんなふうに思い始めていた。